Prince of Tennis









本気の恋をした。
だけど今さら可愛らしくしろっていうのは無理な話。





逸らしがちな視線





別に年下が好きなんじゃない。
たまたま本気になったのが年下だっただけ。

そう仲間に話したら見事なまでに爆笑された。
「今さら純情語られても困る〜」と失礼なことを言いながら面白がる面々に
不貞腐れてそっぽを向く。
純情語って一番困ってるのは私だって言うのに。


「冗談だよ〜。機嫌直して〜!」
応援するからさぁ、とご機嫌とりをする仲間にちらりと視線だけを合わす。

「ほんと?」
「ホント、ホント!」
がんばりなよ、と真面目な顔で頷くみんながやけに似合わなくて
思わず声をあげて笑ったら、問答無用でジュースの空きパックが飛んできた。

「応援しないぞ!」
「あたしが貰っちゃうからね!!」
等など、口々に言われてちょっと危機感を感じて謝る。

「ごめんね。ごめんなさい。・・・・ごめんってば!」

おざなりに言っていたのがバレバレで、
立ち上がってどこかへ行こうとする親友に焦って最後には本気で謝った。
それを見てすとんと腰を下ろしたが安堵の溜息をもらす。
そんな二人の絶妙なやりとりに周りが再び爆笑した。




「応援するわよ。させて頂きますとも」
でものことだから応援って言っても二人でいたら邪魔しないとかそんなのでいいんでしょ?

確認するように尋ねられては笑った。
「さすがさん!よく分かってる〜」
それには、アンタのことぐらい嫌でも分かるわよ、と肩をすくめた。

彼女と出会ってもう5年になる。
皆とは出会ってから2年がたった。
その中ではじめて見つけた本気の恋。
彼女と皆と彼と、出会えたことに感謝する。




新発売のお菓子をぱくぱくと食べるの側で
感慨深く一通りの感謝をした私は目の前の“お菓子なエネルギー袋(通称OE袋)”
からジュースを取り出しストローに口をつけた。
ちなみにOE袋とは各人が毎日持ち寄ったお菓子が詰まった鞄で
常に屋上に置かれているサボり魔の私達の必需品だ。
ゴミはきちんと校外へ!・・・・グループ内のルールでそう決めたので
授業をサボってお菓子を食べていたとしても全く問題ない。
・・・・と皆言い張る。




その時背後でカンカンカン、と屋上へ続く階段を上る時の独特の音が聞こえたような気がした。
それを隣にいた子も聞いたらしく膝立ちで移動してちょいっと下の方を覗き込む。
そうすると開けっ放しのドアから靴音が響いてくるのがしっかりと聞こえ
「あっ、ねぇ。静かに!誰か来る」と声を抑えながら私達に向かって手招きをした。
するとすぐに出来損ないのピラミッドが出来上がり
四方の淵の一辺は出歯亀隊でうめられる。

私は視線だけそっちに向けながらタンクに背を預けてもたれ掛かかり
静かに交わされる会話に耳をかたむけその状況を想像することにした。

―会いたいなぁ・・・・・。
―誰に、とは考えるまでもなく頭に浮かぶ。
―それぐらいに真面目に“恋”してる。



「うそぉ〜、誰だれ?誰来た?」
「うーん・・・・赤だから2年と・・・・・仁王くんじゃん!」
「マジ?告白、泥沼、別れ話、どれっぽそう?」
「うーん、雰囲気的には・・・・・泥沼?」
「うわっ、面倒!うちらいるのになんでココでやるかな?」
「2年もここにいてまだココを選ぶって相当もぐりだよねぇ」


―片恋歴はそんなに長くない。
―でもその期間と恋する強さは絶対比例なんてするはずがない。
―だって自分でも笑えるぐらいありえない。
―聞こえてくる君の仲間の名前にだって反応する自分がいるよ。


「どーするさ?アイツなんか殴りそうな気配」
「えっ・・・・そお?」
「うん。あれはやりそうだね、マジで」
「げー!あたしらのテリトリーで仁王に傷つけんのヤバいっしょ」
「つーか面倒」
「仁王のファンクラブうざいしね」
「そうそう。柳生んとこの見習ってほしい」
「えー!?見習うなら真田のトコしょ。表立たないから楽じゃん」
「柳のファンだって大人しいもんだよ」
「幸村くんとこもね」
「ってゆーか仁王のトコがハンパないだけ。
 フツー『貴方達の領域(テリトリー)で仁王君に怪我させるの見逃さないでよ』とかは言ってこない」
「だよねぇー、ウザいよねぇホント」
「あぁ・・・・・。うーわ、アイツ殴るよ、殴るって」
「じゃあしょーがないから声かけ・・・・・・・!」


呼ばれて顔を向ける。
何?と小声で問いかける前に別の子が言った。


「おっ、2年棟に切原赤也はっけーん!」
「あ、ホント。今一人っぽいよー。いっといで〜」




屋上のタンクに手をついて別棟を見ると空き教室に一人で入っていく姿を見つけた。
私はらしくもなく急いで制服の乱れを直して立ち上がる。
ひらひらと手を振るに片手を上げて、パイプ梯子とは裏になるの方へと回り、
密かに持ち込んだ机とイスでできた階段を降りて修羅場と化した屋上のドア付近へ走る。
そこには丁度手を振り上げた少女と相変わらずな仁王がいて、
私は取り合えず背後からその子の腕を掴み、振り上げた勢いを消しておいた。
後はきっと皆がどうにかするだろうと判断してそのまま開いたままのドアをぬける。
全力で階段を駆け下りた。


2年棟と繋がる渡り廊下を早足で通り目当ての教室へと向かう。
特殊な教室わりの所為か3年が2年のクラスへ、
後輩が上級生クラスのある階へ行き来するのは決して珍しいことではなかった。
見上げた窓の外、1・3年棟の屋上には人影がない。
それに感謝の意味をこめて微笑んで、
覗き込んだ教室の中には机の上に座り窓の外を眺める彼の姿を発見した。
さて、どうしよう?
恋の駆け引きは結構な経験があるのだが、如何せんこれ程真面目にやったことはない。
取り合えず、話しかけようか。
そう思って一歩教室内に足を踏み入れると赤也がはっとしてこっちを振り向いた。
そんな彼の反応に驚いたのは私だ。
思わず話しかけようとした話題を忘れて呆ける。



先輩!」


――broken heartだ。
失恋、じゃなくて。broken heart!
高飛車な猫が愛嬌のあるゴールデンレトリバーに変化したような感じ。
生意気な後輩と名高い彼に明らかに上機嫌そうな顔をして名前を呼ばれたら
きっと私じゃなくてもほだされる。
ストライクゾーンのど真ん中をストレートに打ちぬかれたみたいに。
君はどうしてそんななの?
ほんと会うたびにbroken heartだよ。
だから私はらしくもなく君を真っ直ぐに見据えることができない。



「先輩、どーしたんスか?」


見つめられながら、尋ねられながら、私は隣のイスへと腰をおろす。
また、らしくもなく私はお淑やかなお嬢さん。
いつもだったら躊躇わず机に腰かけてる。

「赤也が一人でいるの見えたから、会いにきてみました」

はい、お裾分け。と左手に持っていた巾着をそのまま差し出す。
中は自分が好きなものだけ集めたチョコレートやガムや飴・・・・その他細々したもの。

「全部いーの?」
「全部いーよ」

どうもっスと頭を下げた赤也に巾着の紐を渡す。
紐を絡める時に触れた彼の手はすらりとした男らしい手で
思わずドキリとする自分に「手フェチ?」と突っ込みを入れておく。
笑いは奥歯でかみ殺す。
手に絡みついたそれに赤也は驚いたみたいに私を見た。

「えっ?この袋もっスか?」
「うん。入れ物必要でしょ?君にあげる」
あっ、でもいらないかな?女モノだもんね。

言った後に思ってそう続けると、ぶんぶんと首を振られる。
存外子供っぽい彼の仕草を見て、何故か惚れ直す自分はすでに末期だ。
気を回してくれたのかもしれない。あげると言った私の言葉に。
それでも首を振って『いらない』を否定してくれたのが嬉しくて私は笑った。
それもやっぱり“らしく”ない乙女の笑みで。
ツクリでもなく自然にそれを出させてしまう彼に“好き”のゲージはいっぱいみたい。
珍しい感じの私の笑い方に赤也の視線がチクチクとした。

苦手だなぁ・・・・、どうしてだろうと考えても理由(わけ)も見つからず。
目を見て相手を絡め取るぐらいできたはずなのにどうしてか彼の目からは逃れたがる。
逸らしがちな自分の視線に気づいたのはつい最近。
だから彼に対してはじめからそうだったのかは分からないけど。

そう考えているうちにふっと視線が外されるのを感じて
今度は私が彼を追いかける。
窓の外へと追う。

・・・・何もない。あるのは広がった空と一足飛びに見える街並みと。
彼を見る。・・・・見上げる。イスと机の高さ。身長差。
真剣な横顔。何かを見つめる眼差し。
強く鋭い・・・・・でも何かを考えるような、何かを耐えるようなそんな眼差し。
シャープな顎のラインに、首すじにやはりドキリと心臓が鳴る。
(・・・・・フェチ?)落ち込んで、でも見惚れて、視線を離す。
もう一度窓の外を見て、・・・・・何もない。
戻した視線の先で赤也はいつも通りの顔をして私を見ていた。
今度は私が目を逸らす前に赤也が微妙に私の目を見ない。
だから私は彼を真っ直ぐ見ていることができ。
にこりと赤也が笑う。脈絡のないその笑顔に疑問を感じながらも口端に笑み。
彼はこんな風に愛嬌を見せることがあったのかと新鮮さを覚えた。




赤也は数秒巾着を見つめ、何か思いついたようにポケットを探りだした。
Tシャツの胸ポケット、ズボンのポケット、
そして目当てのモノが無かったのか机にぶらさげてあった袋を(まさぐ)る。
視界に入ってきた右手は軽く握られていて。

「これのお礼っス」

巾着を指差して、彼のもう片方の手が私に向かってのびる。
差し出した手の上に落ちてきた色々な銘柄のガム。
手の上から落ちそうになるそれを反射的に左手をあててすくいあげた。



「こっちがオレのオススメ、こっちのは丸井先輩からもらったヤツ」
「コレ、包みがないよ?何味?」
「さぁ〜・・・・わかんないっス」
オレ的にはミックスベジタブルな予感!

思わず真面目に「それはちょっと・・・・」なんて返しちゃって
「ウソっスよ」と笑われる。
どうしてこんなに調子が狂うんだろう?
恋の力は偉大だと言った過去の人物は偉人だったに違いない。




見上げる視線の先で赤也が巾着からチョコレートを取り出す。
たくさんの中から迷わず取られたそれにチョコ好きなのかな?と見当をつけて。
彼の口の中に消えていくそれは一番のお気に入り。

「なくなったら補充してあげる。足りなくなったら向こうの屋上においで」
教室にいない時は絶対そこにいるからと付け足して。

悪いっスよ、と渋る赤也にたくさんあるから大丈夫と笑い。
彼に会える口実ができるなら安いものだ。なんて打算をする。

「じゃぁ俺も何か持ってきますよ!それでフェアってことで」

頷いて見上げて重なりそうになる視線をずらす。
目の端で彼が憮然とした表情になるのを捕らえた。
その意味を私は図りかねて。
すとんと赤也が机の上からイスへと移動する。
それに一瞬興味を奪われて彼を見て
自分に注がれたままの視線に気づき彼の目にたどり着く前に来た道を戻る。
少しあからさますぎたかと自分でも思った。



そんなに切原の何かが切れた。



先輩!こっち見ろよ」

苛立ったような声。
ボリュームの上がったその声に驚いて思わず言葉通りに彼を見て
ぐいと引かれていた腕を意識し忘れる。
そして言われた言葉を判読していると掴まれた腕の事など頭から消え去る。

・・・・これは・・・・脈あり?
ほとんど怒鳴られたに近い声の荒さだったのに
何か一拍ずれた心が呑気にそんなことを思った。
内心でガッツポーズする。
ここまでくると真面目にシリアスに、戸惑う女の子の様子なんてできなくなる。
要するに私は反応にほとほと困った。

そんな私とは逆に赤也はしまった・・・・という顔をして
私の腕を掴んだ自分の右手を見つめている。

うーん・・・・どうしよ?これは告白した方がいい場面?それともまだ待っとく場面?
さーん!どうするべき?
――とりあえずココにはいない私の教祖様へと聞いてみる。

そんな私が心の中で葛藤を繰り広げている間、
赤也はじっとしていた。
じっとしているようにには見えた。

軽くふせられた顔の下で強気な笑みが広がっていく。
最初にが魅せられたその笑み。
口元にのせた皮肉的にも見える笑みをそのままに切原は顔をあげ
・・・・・・・は呆けたようにそれに見惚れた。

目を逸らせなかった。
ヤバイ好きだ。この男。
直感的にそう思った。

無意識に上げたロブにスマッシュが返ってきた。
スマッシュは打ってないのに絶対に取れないリターンが返ってくる。
綺麗に打ち抜かれる。

先輩、そう呼んで私の意識を掠め取る。
先輩、そう呼んで私の意識を絡め取って離さない。
自信満々の態度と口調でそんなことを私に言う。

「ホレさせてみますから覚悟して下さいよ」と。

さすが王者立海テニス部のエースだよ。
なんて完璧に決めてくれるんだ。



するりと手を放されて、腕が重力に従ってぶらりと垂れる。
彼に言うべき一言を見事に言い忘れた私は
言うだけ言ってどんどん教室からでて行ってしまう赤也に
彼らしいなぁと思いながら。

馬鹿。そんな君にめろめろだよ。

呟いて後を追う。
せっかくだからもう一度ホレさせてもらおうと思って
好きだとは言わないけど。






君を想う5つのお題1&2より