かなわなかった夢も、同じ場所で追いかけ続ける人間がいれば消えたりなんかしないんだ。
どんな態度をとっても、密かに尊敬していた先輩たちが
この場所を去っていっても今はまだ、オレがいるから。
アンタたちの背中を一番近くで見てきたオレがいるから。
今度こそその夢、かなえてみせますよ。
オレの・・・・唯一だと思えるパートナーと一緒に。
The last episode.
照りつける太陽はあの時となんら変わりないほど強く輝く。
背後からさす、日差しをあびながらリョーマはただ静かに目の前の試合を眺めていた。
あれから2年・・・・。前よりもずっと伸びた身長がその歳月の長さを物語っていた。
すらりと伸びた肢体も、意志の強そうだった顔のつくりも
何のそつなく“かっこいい男”へと変化している。
2代前の部長と比べても負けず劣らず端正な外見をしている現青学部長への人気は、計り知れない。
そして、リョーマが部長になってからはそのカリスマ性が頭角を現し、
今では部員中から慕われる完璧な部長になっていた。
リョーマは何の感情も表情に表すことなく、コートの戦いを見つめている。
5−3....
2ゲームの差をつけられてシングルス3が負けていた。
そしてこの試合に負けてしまえば、1勝2敗で後がなくなることになる。
大抵ならその大きすぎるプレッシャーを背負って、
――特に全国大会の決勝戦で――
この戦況となれば焦りを感じずにはいられないだろう。
それでも・・・・コートの中の選手にはそんな焦りは微塵もなかった。
絶望などは全く感じられない。
それどころか、自分の力をだしきろうと最後まで諦めてはいなかった。
その選手の瞳の輝きを見てリョーマはニヤリと笑ってみせた。
・・・・負ける気がしない。
今度こそ、no.1の座をこの手で掴み取ってやる。
滾るような熱意が体中を駆け巡った。
手首の黒いリストバンドを意識しながら、左手を、握り締めた。
□
「お〜い!おチビーーーー!!」
ぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってくる菊丸に驚いて、
声のするほうを見たリョーマはさらに驚き一瞬、目を見張った。
がばりと抱きついてきた菊丸ごしに、かつての青学レギュラー陣がそろってこっちを見ていた。
思わずこぼれそうになる笑みを、呆れたような表情に取り繕って誤魔化す。
「菊丸先輩・・・・抱きつかないでクダサイって何回言えば分かるんですか?」
「まぁまぁ、固いこと言うなよな〜。おれとおチビの仲じゃんかー!」
「どんな仲っスか・・・・」と呟いて、それでも心の中じゃ嫌だと思っていない自分に気づく。
2年前のような雰囲気が楽しかった。
「越前、背ぇ伸びたねー」と笑って言ってくる不二にリョーマは
「そりゃ2年もたてば伸びない方がおかしいっス」と言い返す。
それを見て、不二はなつかしそうに目を細めて笑い出す。
「相変わらずだね」という言葉に返されたのは「先輩こそ変わってないじゃん」というセリフで。
レギュラー陣はさらに生意気に育ったリョーマを感じたのだった。
「まさか、お前がちゃんと部長をこなせるなんて夢にも思わなかったぜー」
「部長お前に決めたとき、マジで先が心配だった・・・・」
その時の気持ちを思い出しているのか、ひとり言のように呟いた桃城と
密かに頷く海堂にムカっとする。
「よく部員がついてきたよなー」
とバカにしたような、感心したような感じで頭をポンポン叩いてくる桃城の手を
「大きな世話っス」と言ってはらいのける。
身長が伸びても、自分が部長になってもこの関係はちっとも変わっていなかった。
それが嬉しいようでいて、少し悔しくてリョーマは意識的に視線をコートへと移してしまう。
そこにあったのは5−3のまま、相手側がマッチポイントをむかえているギリギリの状態。
誰が見ても、この勝敗は見えていた。
リョーマの視線を追うようにしてコートに視線を向けた元レギュラー陣も
厳しい戦況に眉をよせる。
誰かが呟いた。「難しい試合だな・・・・」と。
今戦っている選手にしても、この先の勝敗的にも。
その言葉にリョーマはくすりと笑う。
「何言ってんすか?」
揺ぎ無い、凛とした声が菊丸の腕の中から響いた。
不敵に笑った強い眼差しが全員を貫く。
「先輩たち、何処を見てるんです?
試合してるあいつも、周りの部員も全然そんなこと思ってませんよ」
驚いて皆1人1人の顔を凝視した。
確かに彼らの中の誰1人として勝敗に囚われている者はいなかった。
あるのはただ、精一杯自分の力をだしきって恥じない試合をしようとする目。
そしてそれを応援しようとする目だけだ。
無慈悲なホイッスルが一瞬しんとなったコートに響いた。
ピッピーーーっ。
ゲームセットを告げる笛の音が響く。
「おつかれ!」「いい試合だったぜ」と言う声があちこちから聞こえてきた。
それを見て、惑い、何でだと聞きたそうな周りの視線にリョーマは気づく。
その視線を受けながらリョーマはちらりと目線を多くの部員の中への1人に動かした。
見慣れた姿を目の端で捉えながら、自分を見つめてくる元レギュラー陣たちにしれっと言い放つ。
「そんなの決まってるじゃないですか。この試合、負けるはずがないこと皆知ってるからっスよ」
そう言って、自分の足元に置いてある鞄の片方から
丁寧な仕草でラケットを取り出す。
大切なものを扱うように手に取られたシルバーフレームのラケットは
その存在を主張して銀色に輝いていた。
「!!」
リョーマのその声に反応するかのように、
コートを眺めていたたくさんの部員の1人がこちらを振り向く。
何のために名前を呼ばれたのかすでに承知しているのか、
恐ろしく整った顔をしたその人物はリョーマを見止めるとゆっくりこっちに向かって歩いてきた。
近くで見るその顔は美人だと思わせながらも、男らしさを失っているわけでもなく
同性からもかっこいいと言わせる要素を持っていた。
「はい」と言う言葉と一緒に手渡されたラケットに、
は「さんきゅ」と言ってそれを受け取る。
「越前、この人は?」
「ああ・・・・。桃先輩たちと入れ替わるように入ってきた―――――・・・・」
そこで言葉をいったん区切ってから、「“天才”っすよ」と言葉を続けた。
自分のほうが上段にいるせいでいつもとは違い大きく開いている身長。
の顔を上方から見つめながら、本人に確認するかのようにいったん言葉を区切った。
続けられた言葉には苦笑しながらも、否定しようとはしなかった。
それを見てリョーマは思う。
自分の力量に自信を持つ―――――
『さすがオレの だ』と。
「んで、オレのパートナーです」
付け加えたリョーマの声と重なるようにして、シングルス2の試合を促すアナウンスが流れた。
一瞬のうちに青学内からざわざわとした、空気が生まれる。
そのアナウンスをリョーマの横で静かに聞いていたは、
手塚たちに軽く会釈をしてから踵を返した。
歩いていくのはもちろん自分の戦場―――――。
リョーマは先にコートへ向かったに少しの間視線を移してから
目の前の人物たち・・・・特に手塚を見ながら強い眼差しで話し出す。
青学の部長としてだけではなく、個人として
そしてあの頃の延長線上にいる『生意気なルーキー』として・・・・。
「先輩たちの夢。・・・・それは同時にオレたちの夢でもあるから、
―――今度こそ、かなえて見せますよ」
・・
「なんたってオレたちは青学の柱っすから」
意味深な言葉で不敵に笑ってから、楽しそうに踵を返す。
向かう先はテニスコート。
シングルス2のとき、自分の指定席となったベンチシートへと。
自分達がそこにいる限り、負けはしない。
強い声援が会場を揺らした。
この後、青学の2人の天才が試合を変えた。
爆発する歓声を聞きながら有名すぎる青学テニス部のOBたちは
自分達が成しえなかった夢を掴んだ後輩に、心から喜んだ。
―――これは3代にわたる青学全国大会優勝への思い。
そのラスト・エピソード。
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