BLEACH









更木剣八率いる、十一番隊。
護廷十三隊の中でも最強の力を誇る戦闘部隊である。
そのためか、他の隊に比べて女の死神が非常に少ない。
副隊長を入れても3、4人しかいないという少なさである。
その数少ないうちの一人、結構な年数を十一番隊で過ごしてきたという死神は
他の隊の死神に比べたら強く、しかし十一番隊の中では平凡な戦闘能力を持つ普通の死神だった。





惹いて惹かれし





風が吹くたび髪が流れる。
足を一歩進める度髪が揺れる。
それを鬱陶しげに払って一直線に五番隊の詰め所へと向かう。

名を
その事務系の仕事の的確さと処理速度の速さは有名で
どの隊からも欲しがられる有望な人材だった。
字は丁寧で読みやすく、彼女が作った文章は纏まりがあり分かりやすい。
基本的に事務仕事を苦手とする戦闘主体の死神が多い中でそれはとても貴重な存在で。
どこの隊からも欲しがられるその能力故に移動要請が多い死神の中の1人でもある。
しかし実際に彼女が隊を移動したのはたったの一度。
護廷十三隊に入隊した時に所属していた十番隊から
今いる隊へ移った時のたった一回のみである。






は軽く戸をノックして入室の許可を求める。
内側から返ってきた優しげな声を聞いた後でゆっくりと扉を開き足を踏み入れた。
軽く添えられ手で音も立てずに戸を開き、謙虚さの窺える物腰で挨拶をし頭を下げる。
その動作一つ一つに当人の慎ましさと品の良さがあらわれていた。


「藍染隊長、書類をお願いしたいのですが・・・・・・」


が部屋の中のその人を見つけようと顔を上げると
真正面で寛いでいる目当ての人物と見知った副隊長格の死神が数人、目に入ってきた。
その光景に、責務に負われてわずかばかり溜まっていた疲労感が一気に癒されるのを感じながら、
しかし本来ならばありえるはずのないそれに苦笑する。


「本当に皆さん仲がよろしいのですね」


ふんわりと笑ったその笑顔に彼らの方こそ『癒し』を感じていることをは気づかない。
どこか殺伐とした雰囲気をぬぐいきれない瀞霊廷で
人を和ませる空気を持つ人間は特異であり、また、救いであった。



「あっ・・・・・!さん、こんにちわ」


そう言ってペコリと頭を下げた雛森には驚き、あわてて頭を下げ返す。


「雛森副隊長、安易に頭を下げられたら困ります。
 私は一介の死神にすぎないのですから」


顔を合わせれば親しく話をするようになってからもう幾場もたつのに
一向に距離を縮めようとしないに雛森の方こそ困ったように笑った。
彼女は優しいが一方で生真面目な所もあり、
決して自分達に対して砕けた口調や態度で接することはない。
それが友人として接して欲しい自分にとっては悲しく残念で仕方がなかった。


「阿散井副隊長、吉良副隊長、こんにちは。檜佐木副隊長にはお久しぶりです」


再び律儀に会釈したに頭を下げ返したくとも
今の会話を聞いていたせいでそれもできない。
3人はただこんにちは、とだけ返し困って顔を見合わした。
それを近くで眺めていた藍染が助け舟を出す。


君。皆、君には頭を下げたくなる程感謝してるんだ。
 特に階級が高くなればなるほど君に世話になる」


僕だって君に挨拶する時は頭を下げたくなるよ、と言った藍染に
はひどく狼狽した。

しかし言外に含まれているであろう意味を敏感に汲み取り
焦りそうになる心を落ち着かせ、軽く息を吐く。
やはり内心は変わらずに礼式について頑なではあったが、
向けられる好意を憚りたくはなかった。
は先ほどのように表情をやわらげる。


「そんな恐れ多いことは絶対なさらないで下さい!
 五番隊の皆に仕置きをされてしまいます」


大いに真面目に、でも少しだけ冗談も交えて。
「ねぇ雛森副隊長?」と同意を求めて、
数秒後に返ってきた同意におかしそうに笑った。






書類を見てもらう十数分の間も輪の中に入り
楽しそうに話をするその様子を眺めた。
たまに相槌をうちながら、
正反対のようでいて実は息のあった阿散井と吉良のやりとりに笑い
それにつっこむ檜佐木に笑い、
言うところはズバリという雛森と3人の押し黙る光景に笑いその時は早く過ぎた。



手渡された書類を確認して、その速さを正確さにいつものように感嘆の声が出る。
「相変わらず完璧ですね」
そう言ったの言葉に藍染は笑いながら「君には負けるけどね」と返し
返されたは照れくさそうにゆるく笑みを浮かべた。
高い能力を持ちながら、決して尊大に振舞うことをしないその様子は
あの六番隊隊長ですら好感を持ったという。
それは藍染とて違わない。
彼もまた他の隊長と同様にの移動を希望する内の1人であるのだから。



「急ぐわけでもないだろう?もう少しゆっくりしていったらいい」


そう人好きのする柔和な笑みを浮かべながら留まることを促すと
は困り気に藍染を見上げながらしかし
きっぱり否、と告げる語調は決して迷いを見せてはいなかった。



「とても嬉しいお誘いですが・・・・まだきっと仕事が残ってますので」


どこか(仕事が残っているというにも関わらず)嬉しそうな顔で言い、去っていった
藍染は胸の中で諦めの溜息を吐く。
――まったく更木も羨ましいことだ。
しずしずと歩くその様子をみながらそう独りごちた。









十一番隊の詰め所へと戻るの足取りは心なしか軽やかだ。
表面上ではかすかな変化だが、
そこに偶然通りかかった十一番隊の面々は様子の違いを的確にとらえていた。
いや、見て分かったというよりはそうであろうことを知っていた、という方が正しい。
、己が隊長更木剣八を心底慕う死神であった。



先ほどと同じようにゆっくりと戸を引き、中に足を踏み入れる。
途端、部屋のさらに奥からちりんと耳慣れた音が聞こえ
はっとするように顔を上げ、前方へと視線を向けた。
それから口元から目元へと喜色を浮かべ、
普段から穏やかな笑みをさらに和らげる。
顔立ちの美麗を問わず、それは笑みだけで人を魅了できるほど綺麗なものだった。

更木はそんなの様子を知りながら、あえて視線を向けることもせず
己の前に十数枚積み重なった紙の束から一枚を手に取り
回りくどい言い方をした長ったらしい文章に目を向けた。

頻繁にやちると何処かへ出かけてしまう更木が執務をすることは珍しく
こうして詰め所にいるのは稀である。
しかしそれは別に当人が不真面目だからというわけではなかった。
ただ座っているだけの事務は嫌いであったが、やらなけらばいけないことはやる。
それが更木という男だ。(仕事の良し悪しは別としてだが)
彼が出かけることが多いのは、その時間があるからであって
決してやるべき仕事をさぼっているのではない。

ここ数十年、更木の仕事は極端に減っていた。
その原因が、引く手数多と言われる死神、である。
彼女の更木崇拝と甘やかしは尋常ではない。



しずしずと歩く慎ましさはそのままに、少しばかり早足で更木に近づく。
があと数歩という距離まで来た時、そこではじめて更木は顔をあげを見た。
ちりんと鈴が鳴る。
はわずかに厚みのある紙の束を数秒見つめてから
にこり、と効果音がつくほどの笑顔で笑い
右手をつつつと伸ばしてその紙束を手に取った。
そしてそれを胸に抱くようにして言う。

更木隊長、と呼ぶ声は彼が上司であることへの幸せに満ちており
「このような仕事は私がやりますから」と言う声音はさも嬉しげであった。




「隊長は少し休憩されてはいかがです?
 隊長に食べて頂きたくて美味しいと評判の菓子を買ってみたんです。」


更木に会えた僥倖には至高の笑みを浮かべ笑う。


「・・・・悪いな」


そう言う更木は、ひたすらに向けられる好意に毎度のことながら苦笑した。












「あーー!!剣ちゃん、ずっるーい!自分ばっかり」


戸を開けるのと声が聞こえるのと更木の背に何かがぶつかるのはほとんど同時であった。
背中に体当たりしてきたやちるを物ともせず、
受け止めた更木はわずかに視線を動かし戸の方を見る。
そこには十一番隊の中でも実力が抜きん出た存在である一角と弓親が呆れたように立っていた。


「更木隊長・・・・仕事もせず何やってるんですか・・・・」


菓子ののった皿に手をのばし、ぱくんと一つを口に入れたやちるの「おいっしーー!!」という声を流しながら
2人は同時に溜息を吐いた。

目を向けた先、上手いと評判の菓子の横にはしっかりと茶器一式が並べられている。
それを見て違和感を覚える。
この隊で一式をそろえてお茶をするなどという細やかな人間は皆無に近い。
特に更木という男が自分でそろえてお茶をすることなどあり得ない。
では・・・・?と考えたのはわずか一瞬で
しかし2人は、そんなことをするだろう人物が思い当たった。

そして室内に響くさらさらという筆の音に気がつき、音源へと目を向ける。
・・・とそこには案の定というか、何の苦のなく書類と向き合うがおり
2人はさらに呆れて溜息を重くした。

やっぱりお前か――・・・・。


、お前なぁ・・・・・あんまり隊長の仕事とんなよ」

「というか、甘やかしすぎ」





「いいんですよ・・・・・・・」


にこりと笑う。更木のこととなるとからは条件反射のように笑みがこぼれる。
これが確信犯であったなら更木はたまらない。


だって更木隊長ですもん。
そうは理由にすらなっていない言葉をさも正論であるかのように言ってのけた。





「剣ちゃんは、十三隊の中でいっちばん幸せな隊長だよね〜」
にこにこと言ったやちるに「確かに」とその場にいた隊員は頷いた。









己が隊長に限りなく崇拝に近い思慕を寄せるの素直な好意に
最強更木剣八が陥落する日は近い。