泣き崩れたミアキス殿を支えたのは王子だった。
取り乱して叫ぶロイくんを受け止めたのも王子だった。
感情をあらわにした二人につられるようにして泣き出した仲間を、
つらそうに眉を寄せ悲しみに耐えている仲間を、
現実を飲み込めずに混乱している仲間を、
それでも立ち上がらせたのは王子だった。
ぐらぐらする。
足元が地面が立っていられないほど揺れて揺れて。
王子――…。
泣くな。そう自分に命令する。強く強く。願うように。
駄目なのだ。自分が泣いたら王子の泣く場所を奪ってしまうのに。
泣き場所になろうと決めた自分が泣いたらあの優しくて毅くて厳しくて儚い王子はきっと泣かなくなる。
それが分かるのに。
守ると決めた。
でも彼方の守りたいものを何一つ守ってあげられなかった。
こころが決壊したように気持ちを押し流して、張り詰めた糸が切れそうになる。
ふいにオレを見た王子と、目が合った瞬間――だめだと思った。
それまでの努力が大きな波に泡のように消されて、彼に向かって手を伸ばす。
触れたら意識なんてせずに膝が砕けた。
「王子。――王子。ごめんなさい」
「何を謝るのカイル」
「オレは騎士なのに彼方を守ると誓ったのに、守れなかった――!」
「……………………」
「王子の心を守ろうって決めたのに」
「……………カイル」
「決めてたのにオレは彼方に何もしてあげられなかった」
「カイル」
「ごめんなさい――!」
ごめんなさい。そう言って恥も外聞もなく嗚咽するカイルを抱きしめる。
笑みをたやさず、軽く装っていつでも場を和ませる男が見せた涙に胸が締め付けられて、抱きしめた腕に力をこめる。
誰よりもだれよりも自分たち王家を愛してくれた男だと思う。
僕たちを思って傷つき、僕たちを思って怒ってくれる、大切な大切な存在だった。
その彼が泣いている。他の誰でもない、僕を思って。
「………ばかだねっ」
語尾が震える。どうしようもなく。
「何もしてあげられなかった、なんて。そんなわけないだろ」
たくさん、たくさんある過去の記憶のどこを見て君はそんなことを言うの。
「いつもいつもいつも。守ってもらってたよ」
「カイルだけじゃない。ゲオルグにもミアキスにもガレオンにもっ……!
その存在に僕は心底救われてた」
無力だったと、打ちひしがれる騎士たちの声ならぬ声がずっと聞こえてた。
責めないでよと思う。
僕たちはこんなにも思われて、守られて、救われてきたのに勝手に自分で自分を責めて苦しまないでよと。
たくさんの人が傷つき、自分もまたたくさん傷ついた。
でもだからと言って『何も』なんて、そんな哀しいことは言わないで。
過去の全てをそんな哀しい言葉で片付けてしまわないでよ。
「君たちが騎士でよかった」
心から、そう思う。そう思ってる。
自責しているだろう騎士たちに向かってそう呟くと、
ガレオンが天を仰いでミアキスが泣き伏して、ゲオルグが目元を手で覆った。
女王騎士だからこそ辛い思いをさせていたと強く思った。
一生のうちこの思いはきっと、今しか伝わらない。
今言わなければいつ言うんだろうっていう言葉がこころの中にある。
「カイルたちが守ってくれたたくさんのものがあったから、
僕は今こうしてここにいられる。――ありがとう。
本当にたくさんたくさん、ありがとう……!」
リムも父上も母上も叔母上もきっとそう言う。
迷わずそう断言できる。
「だからカイル。何もしてあげられなかったなんて思ったりしないでよ。
僕を守れたかどうかなんてカイルが一番よく知ってるでしょ。
……君の前で弱音を吐いた僕は一体どこへやってしまったの?」
わかってる。わかってるけど。
でも………、
守れたものより守れなかったものの方がずっと多いような気がしてしまうのもまた、
事実なんです。
弱さの露呈 騎士になった自分が守れたものをこの時はただ思い出せなかった
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