同じコートの中に青峰くんを、感じる。
それは慣れた感覚だった。
遠い昔にあったような、でもずっとそばにあったような、自分の中にあるその感覚を研ぎ澄ませる。
瞑った目蓋の裏側、真っ暗な中で自分の鼓動を聞いた。
どくん、どくんと静かに鳴っていた心臓が、彼の感覚を感じるたびに速さを増して行く。
周りの音が全て消えて、全身が一つの脈動になったかのように変化する。
感じるそれは、ただ、歓喜だった。
自分の身体が歓喜を叫んでいる。歓喜に震えている。
喜びを認識した瞬間に開けていく視界。
映るのはただ一人、『ボクの光』。
心が喜びに震えている。
震える全身が彼を感じる。
もう一つの鼓動を感じる。息遣いを、その熱を、ぎらぎらと燻る獰猛を、感じる。
感じて、そして世界が、産声をあげる――。
動き出したボールを追いながら走る。
見えるのはボールと、光だけだ。
こうしよう、とか。
こう動こう、とか考えることをしなくても身体が動く。
分かりますよ青峰くん、今そこへパスをします。
振り切って、ターン、緩急をつけたあと斜めに押し込んで――。
一度戻して、・・・あぁ変わった。すぐに弾いて彼へ返す。
キミの声が呼ぶ。
言語の形になんてしていない、音にだってなっていない。
でもキミの声が呼んでいる。
ぎゅうと湧き起るものが胸をいっぱいにする。
分かっています。すぐに行く。
そこへすぐに行くから。
こたえて。
回ってきたボールを強く押し出した。
それは足を踏み切った彼の手にバシンと音をたてておさまる。
ボクはそこに留まってリングへと繋がる弧を、何度でも彼とボクを繋げるその美しい曲線を眺めた。
振り向いた顔が不遜に笑っている。でも、分かる。
あぁキミはいまとても楽しんでいるんだってそう、分かる。
そうしてコツリとぶつけられた拳が、さらにボクをキミの影にする。
満たされている。そう、感じる。
バスケへの渇望が満たされている。
情熱が、キミで満たされる。
キミの情熱が、満ちていくのが分かる。
もっと速く――えぇ、ちゃんと届けます。
もっと強く――はい、何度だって。
タップしたパスをバウンドさせて走る、右を軸に反転。
受け取って、抜け出た所へ返す。
ざわりとするほど存在感を増した彼が、シュートの体勢に入る。
走る。
コート上の全ての意識をさらっていったそれを隠れ蓑に、走る。
リングから数歩の位置。
立ち止まって、瞬間、ボールが、手に落ちてきた。
腕を押し出しながら、ずっと遠かった輪を一心に見つめる。
彼からのパスを、はじめて、ボクで終わらせた。
身体が熱い。
テツ、って呼ぶ声がする。
分かっている。
そんなに呼ばなくたって、キミが呼んでさえくれれば、ボクは分かる。
呼ばれるまま、全ての敵を追い抜いて走るその背に向かって、打つ。
一直線に進むボールが彼に並ぶ瞬間。
すくい上げるように大きな掌が掴む時。
そして力強くジャンプするタイミング。
――全ては、同時だった。
豪快な音をたててリングをくぐったボールが、跳ねる。
音が消えた体育館でその音と、彼の着地する音だけが響いて、消えた。
じっと揺れるリングを見ていたら、走り寄ってきた彼に頭を強くシェイクされる。
興奮したような熱い腕が後頭部にまわされて、一瞬だけぎゅっとされた。
やっぱり俺にはお前だけだ、そう何かを押さえ込んだような声でキミが言う。
ぐわりと体温があがって、心臓が痛いほどに脈を打った。
そのあとのゲームは、あまり覚えていない。
「こんなんってアリなのかよ・・・」
「あいつらならば可能なのだろう。あの頃と同じ・・・いや、むしろ進化さえしているのだよ」
呆然としたような声に緑間が返す。
「帝光の光と影――やはり見る度に思い知らされる」
感情を押し殺した、
その場にいる全ての人間の代弁をするような言葉は、静まり返っていた体育館に僅かに響いて消えた。
【3.帝光の光と影】
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