【祖国と本場とバスケ馬鹿@】
いつものストバス場で練習をしていた黒子のもとになぜか青峰が現れ1on1となり、その合間。ベンチに放っておかれた上着の中で長らく主張を繰り返していた携帯を開けば数回の着信と構ってメール。
「・・・・・・」
気持ちを言葉で表すなら「黄瀬くん・・・・(溜息)」といったところか。脱力を感じて深々と溜息を吐いていると「テツー!はやく戻ってこいよー」の声に急かされる。
「今行きます」
意識は既にバスケへと向かい始めるなかおなざりに地名だけを返信する。
意味する所は伝わるはず。きっと彼は飛んでくるだろうなと思いながら再びボールを追いかけた。
* * * *
「・・・げ」
ファントムシュートが決まったシュっというネットの揺れる音がしたのと同時、背後から聞こえてきた声に黒子が振り返る。
「火神くん」
「なんで青峰まで・・・」
あらかじめ用事が済んだら俺も行くと言っていた火神は、いるだろうなと予感しつつもいない方がいいと願っていた相手の姿を見つけて嫌そうな声をあげた。
別に人間としても一緒にバスケをする相手としても青峰のことは嫌いではないが、やはり黒子の元相棒というのはなんだかんだ複雑な存在に違いなく。
息のあったパス回しとかを見ると若干イラっとするのも確かなのである。
「あー?後から来て文句言うなよ火神」
訂正。火神にとって人間としてもイラっとするタイプだ。
「火神くん待ってました。はやくバスケしましょう」
対して自分の相棒はたまに可愛いことを言ってくるので満更でもない。
着ていた上着を脱ぎ黒子の横に並ぶ。すぐにボールがパスされ、前方に立った青峰が腰を落として迎え撃つ。
青峰と黒子の1on1から、対青峰に変わった。
* * * *
火神が本日5本目のシュートを決めた時、なんだか騒がしいのが近づいてくるなと思っているとやって来たのは黄瀬と緑間だった。
なんだかよく増える日ですね。黒子がそんな感想を感じていると自分達を見てることに気付いた黄瀬が「黒子っちーーーーーー!」と叫びながら突進してきた。
「呼んでくれて嬉しいっス!」抱きつぶす勢いでじゃれつかれ、息も絶え絶えになりながら落ち着いてくださいと肩をぽんぽんと叩く。
一緒にバスケができることが嬉しくてたまらないと毎回全力で伝えてくれる黄瀬が、黒子は口には出さないけれどとても好きだった。調子に乗るので口には出さないけれど。
落ち着かせる為の肩ぽんぽんは全く役に立たなかったが、緑間が変わりに力ずくで引き剥がしてくれる。
「暑苦しいのだよ黄瀬」
「ひどいっス・・・!」
「緑間くんありがとうございます」
「つーかなんでこいつらまでいんだ?」
「あ、僕が呼びました」
「そうっス!黒子っちによばれて!!」
「間違えました。3回の電話と2通の構ってメールが面倒だったので地名だけ送り返したらびっくり。今ここに黄瀬くんが」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・何スかそのこの無言は!みんなだって分かるっしょ!?黒子っちからそんなメール来たらストバス場集合って思うっすスよね!!??」
「・・・・・・」
「黒子っちの無言が一番痛い!」
分かると思っていたからこそのメールだったが断言されるとそれもそれでなんとなく微妙な気分になるのはなぜだろう。・・・気にするのはやめましょう。
「うん。別になんでもいいです。それではみなさんバスケしましょう」
「だな」
「そーしよう」
「それがいいのだよ」
「まさかのスルー!?」
うぅ・・・みんな冷たいっスとしょげる黄瀬の頭をよしよしと撫でながら促す。
「ほら黄瀬くん。君にパスを出しますから」
ぱっと上げられた顔がきらきらしていて無意識に自分も笑っていたかもしれない。
「楽しいバスケの時間です」
その為に緑間くんも連れてきてくれたんでしょう?君の優しさがとても嬉しいです。
* * * *
いつもならまだ明るい時間帯。空は厚い雲に覆われいつ雨が降り出しても遅くないが、バスケに夢中な5人はそんなことに頓着せずまだまだ続ける気だ。
ローテーションをしながらの2on2、あるいは変則の3on2に息も絶え絶え、黒子は一端抜けベンチの上に倒れ付した。
ぜぇぜぇという耳障りな呼吸音。落ち着く気配が全く無いほどに疲れているのに、顔だけは根性で横に向けて他の4人のバスケを見る。
そこに赤司や紫原がいないことが少し寂しいけれど、見ているのは充分すぎるほどに幸せな光景だ。
楽しそうに笑って。認め合った全力を出せるライバル同士で。本当に楽しそうに。
いいなぁ、好きだなぁと思いながらぼんやり眺めていると荒かった呼吸も落ち着いてくる。
そろそろ黒子が回復してきたのが分かるのだろう。壮絶な勝負の中でもたまにちらちらこっちに向けられる視線があることに気付いて心に温かいものが生まれる。
求められている。それはどんなに幸せなことだろう。
完全に息が戻るのを待ってから起き上がり座りなおす。ベンチ下に置いてあるボトルを手に取って中味を勢いよく煽ったときだった。
ワンというよく通る犬の鳴き声が聞こえて反射的に振り返る。誠凛で二号を飼うようになってから、鳴き声が聞こえるとつい目を向けるのがクセになっていて思わず。
振り返った後数秒。黒子は見えたものに驚いて目を瞬かせた。
ストバス場に続く石段から現れたのは1匹の小型犬。その愛くるしさは特筆に価するものがあったけれどここでは置いておき。
驚いたのはその犬を連れていた人間が見たことも無い珍しさだったからである。
ぱっと見た時に最初に目が行くのはリードを持った背の高い方――見事な金髪に彫りの深い顔。典型的に思い浮かべる外国人そのままの姿の男。
対して隣にいるのは小柄な日本人。なぜ分かるのかというと、その人物が国内でも滅多に見れない和装姿――しかも色柄や帯を見ると分かる、男性の着物姿は更なる希少価値だ。
それぞれが見事に主張し合っている二人だったので思わずまじまじと眺めてしまう。
石段を上りきった二人がバスケをしている4人を見て浮かべた表情は真逆ともいえた。
ぱあぁぁっと嬉しそうにした外国人と、驚いたような顔で4人のバスケを見たあとちらりと横に目を向け困ったように溜息をつく着物の人。
興奮したような声がこっちまで届くが僅かに漏れ聞くのは英語のようで、何を喋っているのかは知れないがあの人は分かるのだろう。
首を振り何かを言い首を振り、そして走り出しそうな外国人の裾を掴む。
でも完璧な力負け。そのままずるずると引っ張られるようにして二人ともが移動してきた。
・・・まさかの展開に内心でちょっとだけ焦る。英語とか無理です。火神くんヘルプ。頼りになる相棒の名前を呼ぶ準備を心の中でする。
「Hey!」
「・・・・・・こんにちは」
ぺこりと頭を下げながらあ、こんばんはの間違いだったなと冷静なんだかそうじゃないのか分からないことを考えた。
外国人だから背が高いのかと思っていたけど、普段規格外ばかりが近くにいるからだろう、目の前の人はそんなに大きくないように感じた。
でも眼鏡の奥の空色の色彩に妙な圧迫感と、そこにいるだけで誰をも圧倒するような存在感を不思議と覚えた。
にこっと笑った爛漫な笑顔なのにどうしてだろうと思って思考の渦に入りそうになったけれど、口を開いて言葉を発しそうな気配に黒子も急ぎ準備する――薄く口を開けすぐにでも火神の名を呼ぶ準備を。
「君も彼らの仲間かい?」
開けていた口を一端閉じて改めて開け直す。
「はいそうです」
カタコトなんかじゃない、すごく綺麗な発音の日本語で話しかけられてびっくりしながらも返事をするとますます笑顔になった彼が「じゃあさ」と言った所で、いろんな声が遮った。
「テツどうした?」
「黒子っちーー!」
「何があったのだよ」
「・・・・・・アメリカ人・・・?」
火神になんでそう思うんですかと聞くと雰囲気がなんとなくという僕には全く分からない答えが返ってきた。
みんなが微妙な位置に立ったせいで座っていると金色の髪さえ見えなくなったので立ち上がる。座っていると何時にも増して制空権が皆無なことが嫌だったわけではないです決して。
言葉を遮る、不快を与えてもおかしくない所業を犯した彼らに怒っていないだろうかと確かめた先で、見たのはこっちのことなんかは眼中にないかのように会話するデコボコな二人だった。
「いきなり何をしようとしているんです」
「何って。ただ仲間に入れてもらおうとしただけじゃないか!」
「見ず知らずの方へのお願いはもっと慎重になって頂けないと困ります」
「じゃあどうすればいいって言うんだい?」
「まずは少し様子を見て一端彼らが落ち着いた時にでも、迷惑じゃないか時間は大丈夫か確認しながら」
「なんだいそれは。面倒にも程があるんだぞ」
顔にでかでかと面倒だな!と書いたそのままで、こちらを見た。
「大丈夫。例えここが日本だってバスケの本場はアメリカさ!プレイヤーである彼らだって本場のノリで対応してくれるよ」
言っていることには肯定しか許さないような響きがあるのに、邪気のない明るい笑顔が毒気を抜いているようで反感を感じなかった。
それから少し眉を下げてバスケしたいんだダメかい?と言われ。ここにはバスケ馬鹿しかいない、バスケがしたい人間を邪険に扱うような根性は誰も持っていない。
それぞれが頷きコートの中へ誘うとぱぁぁぁという笑顔で彼はまた笑った。
隣ではしょうがない人ですねとも言っている表情で、でも「菊!君に俺のかっこいい所を見せてあげるんだぞ」との楽しげな声に穏やかに笑むもう一人の人。菊さんという名前らしい。若く見えるけれど醸し出される雰囲気が同世代とは思えなくてさん付けをした。純和風な、育ちの良さそうな見た目に似合った綺麗な名前だなと思う。
自分とほぼ同じ高さにある顔を見ていたら気付いた菊さんが振り返り「無茶を言ってすみません。ありがとうございます」と頭を下げ、それに同意するかのように今までずっと静かだった犬がワンと一度吠えた。
「菊さんはバスケしませんか?」答えは分かっていたけどあえて聞く。そうすると目を細めて微笑んだ彼に心の全てを読まれているような気分になった。
「ふふ。気にしてくださってありがとうございます」
でもこの服装ですし、さすがに運動は難しいでしょうねと言ったのに頷く。着物に草履でバスケは厳しい。
「私は本田菊と申します」
あなたの名前を教えて頂けますか?と尋ねられたので「黒子テツヤです」と答えると、菊さんは黒子くんと一度僕の名前を呼んだ。
はいと返事をする。
ただそれだけのやり取りなのにこの人の側は落ち着くなと感じた。
だからなんだろうか。見た目も性格も考え方も全く違うようなデコボコな二人がそれでも一緒にいるのはと、なんとはなしに考えているとコートの中から急かされる。
足早に向かう背中で「頑張ってくださいね」という耳通りのいい優しい声とやはりワンという愛らしい鳴き声を受けた。
* * * *
死屍累々。
コートの上で息絶えた黒子以外も、それぞれが膝をつき肩で息をし、座り込んで後ろにパタリと倒れた。
立っているのは軽く息を乱した――試合中に名前を聞いた彼はアルフレッドさんと言うらしい、だけだ。その体力バケモノか。すごく分けて欲しい。
「・・・とんでもねぇっス」
「同感だ・・・」
「マジきつい」
「・・・・・・」
「緑間っち死ぬなー」
「・・・生きてるのだよ」
「黒子は・・・ダメだな」
火神くん君はすごく失礼です。でも生きてますと訴えたいのに腕さえ上げられないのが事実なので許してあげます。
動けない僕の頭をくしゃりと撫でる手があってかろうじて這いずるように動かせた手で触り大丈夫です青峰くんと伝える。
「すっっごく楽しかったんだぞ!」
菊!と呼んで近づいて来たその人に向かって報告する声に、なんだかデジャビュを覚えるのは気のせいでしょうか。
大型犬がじゃれつき構って構ってと周りをはしゃぎまわるような・・・あぁ黄瀬くんか。
疲れきった頭が迷走をはじめていると、腕に冷たい雫が落ちてきた。
顔をずらして見たコートにまだらに落ちている影。一つ一つが小さく広範囲に渡るそれは汗でないことが分かって、さらに顔を動かして上を見る。
そしたら頬にも冷たい感触、空を見上げてそれが雨なのだと知る。
ぽつりぽつりと降り出した雨は大粒のものへと変わり、すぐにでも激しいものになりそうな気配がある。
瞬時に解散となった僕たちは黄瀬くんと火神くんが上着を取りにベンチに向かい、緑間くんがテーピングを巻き直し後にしろとつっこまれ、いまだ起き上がれない僕は青峰くんに持ち上げられて立ち上がる。
「走るか背負うかどっちがいい?」
「・・・・・・・・・」
できればどっちもしたくないのが本音だったけど根性を出して走りますと答える。
くしゃりと顔を崩して青峰が笑った。
「・・・でもたぶん途中で力尽きるのでその時はお願いします」
言ったら返ってきたのは爆笑だった。
「お前・・・!テツの根性改めて見直したのにそれかよ!」
「僕はリアリストなんです」
「嘘吐け!相手のベンチに隕石がとか考える時点でリアリストなわけあるか」
「・・・なんで青峰くんそれ知ってるんですか?」
僕のストーカーですか。言ったら殴られた。
「帝光の時言ってただろ。だから勝ってようと負けてようと最後まで全力を出すべきとか・・・なんとか」
「そうでしたか?・・・よく覚えてますね青峰くん」
「・・・お前があまりにもボケたこと言うからだ」
何ていう会話をしていたら本格的な雨になった。ので火神くんに罵倒された。
君たちだって緑間くんのテーピングがあーだこーだ騒いでたくせに理不尽にも程がある。
取りあえずストバス場の隅にあった何かの建物の庇の下、雨よけをしながら空を眺めみても止む気配は一向になかった。
それぞれがどうしようかと思っていると一緒に避難していた菊さんに声をかけられる。
「もしよろしければ私の家にいらっしゃいませんか?」
みんなが顔を見合わせた。
菊さんはそれを待った後に付け加える。人間観察が趣味な僕としては、上手い話術だなとそちらに気がいってしまう。
「私の家はこのすぐ近くなんです。家に行けば傘もありますし、よければ雨宿りしていってくださいませんか」
この人が皆さんを長時間引き止めてしまいましたし、お礼としてもどうか。
そんな風に言ってもらって断るという選択肢は僕達にはなかった。
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